昨日は《マタイ受難曲》の本番でした。

かつてクラシックの世界は常に現代音楽。新しい作品が世に生まれ、過去の作品を演奏することは稀、偉大なるバッハですら忘れ去られていました。そんなバッハの名曲《マタイ受難曲》を世に紹介したのがメンデルスゾーンです。今こうして我々が珠玉の作品を歌い、聴けるのも、このメンデルスゾーンのお陰なのである。

しかし、如何に素晴らしい曲であっても、バロック時代の作品を19世紀の聴衆に聴かせる事には大きな障害があった。

長い…(⌒-⌒; )

まぁ、現代の我々もマタイと聞くと、やはり身構えてしまうほど、3時間近い作品は、当時の聴衆には大きな障壁だっただろう。しかも、すでに廃れてしまった指定楽器もあった。そこでメンデルスゾーンは、ヴィオラ・ダ・ガンバの曲はカット、オーボエ・ダモーレやダ・カッチャをクラリネットで代用した。

また、高音続きのエヴァンゲリストを歌える歌手は当時メンデルスゾーンの周りにはいなかったのだろう。また通奏低音の演奏法も廃れていた。そこでメンデルスゾーンはチェロ2台とコントラバスという、通奏低音を知っている我々からするとなんとも恐ろしい編成で編曲をした。

アゴラはこれまでフォーレ、ブラームス、メンデルスゾーン、ベートーヴェンなどをレパートリーとしてきた。編成もあり、バッハのマタイはレパートリーになかったが、何を思ったか、メンデルスゾーン版マタイを見つけてきたのだ。こんなに難しいとは思わなかっただろう。やはり苦労した。それとそうだろう。しかし、彼らはやってのけた。

しかし、メンデルスゾーン版をそのままではなく、メンデルスゾーンがかつて当時の状況に合わせたように、自らの状況に合わせたアゴラ版を作った。ダブルオケではなく、シングルだが、工夫をしてダブルの効果を出した。そしてチェロ2台だけだとかなり難しく、チェンバロを入れることにした。しかしオルガンはメンデルスゾーンのオリジナルのまま。しかし、それでもチェロ2台での通奏低音はプロオケですら難しく、避けたがるだろう。しかし、チェロの室夫妻は見事に弾きこなした。今回の隠れた立役者と言えそう。

さて、僕はというと…イエス…

と、ユダとペテロと大祭司長とピラトという5役を歌い分けることに。このパターンなんと2回目!?以前も苦労したが、やはり今回もかなりの気を遣った。何せ落語のような、歌舞伎の早変わりのような。しかもシリアスな受難曲なため、その雰囲気を壊さないように。

ペテロは「岩の上に教会を建てる」とイエスに言われた人なので、少し硬めの実直で融通のきかない感じで。ユダはちょっと吹けば飛ぶような、風に吹かれるままに心が揺らぐような感じで。ピラトは疑念に満ち、激昂したり、人任せにしたりする弱い犬ほどよく吠える感じで。大祭司長は…雑魚キャラ?

そしてイエスは、常に声に芯を持たせ、声も心もぶれないようにしつつ、慈愛に溢れた柔らかさを持つよう細心の気を遣いました。

好評だったものの、やはり後半はやや朦朧としてきました。(@_@)

それでも、マタイを再発見したメンデルスゾーン版を歌えた事は、本当に貴重な体験でした。

アゴラよ、ありがとう!素晴らしい歌唱と演奏で、見事にマタイを表現したアゴラに賞賛の声を贈りたい。